システムにおけるフロー:代謝と循環


さて、できれば一枚の紙と2色のペン(仮に黒と赤として話を進める)を手元にご用意いただきたい。A4かB5程度の紙がよい。

まず黒のペンを持ち、紙を横にして真ん中に一本の縦線を上から下まで引く。

それから左側の真ん中に大きな円を書こう。そして、その円を真ん中から上下に区切る線を書く(その線は直径となる)。その次に、区切られた上の部分をまた半分に分ける(その線は半径となる)。そうすると漢字の「円」という感じに線の入った円ができただろう。
左上の4分の1に、「インプット」または「入力」と書こう。そして右上には「アウトプット」または「出力」と書く。それから下の部分の真ん中には「プロセス」と書こう。
これで1つの「単位体」をごく簡単に表した一般的なモデル図ができた。


今度は赤のペンに持ち替える。「インプット」は外部からの入力であるから、そこに向かって円の外側から矢印を書く。逆に「アウトプット」は外部への出力であるから、そこから円の外側に向かって矢印を書く。「プロセス」というのは「インプット」したものをこねくり回して「アウトプット」に渡す部分であるから、「インプット」から「プロセス」を通って「アウトプット」へと、ぐるりと矢印を書く。
そうすると、全体でみると「Ω」を逆さにした形、あるいは「ひ」の文字の形に、3本の矢印が書けたはずである。

これが1つの単位体におけるフローを示したものである。


フローとは直訳すると「流れ」という意味であるが、流れるものは情報であったり、物質やエネルギーであったり、お金であったり人であったりする。そういうものをまとめて、ここでは「フロー」と名付けることにする(個別に言うときは、キャッシュフロー、エネルギーフロー、と言った感じになる)。


さあ、この図をもとにいろいろ考えてみよう。


単純なコンピューター・プログラムから話すのがわかりやすいか。
あるデータを入力してやると、演算処理が行われて(ここがプロセスね)、結果が出力されてくる。
とりあえず、問題ないだろう。


次に、私たち人間を1つの単位体として見てみる。

食べ物を食べる。→ 消化吸収されて血や肉の一部に組み込まれたりエネルギー源になったりする。血や肉は寿命が決まっていて、やがて分解される。エネルギー源はエネルギーを取り出されて、絞り粕になる。→ いらなくなった物質は体外に糞尿として排出される。エネルギーは最終的に熱として放出される。<物質とエネルギーのフロー>

本を読んだり人に会ったりして情報を取り込む。→ 新しい情報が既に持っている情報と結びついて、別の新しいアイデアが生まれる。→ アイデアを試してみたり、ブログを書いたり誰かに話したりする。<情報のフロー>


プログラムのことは私はよく分からないが、人間のような単位体の場合は「プロセス」の部分をさらに2つに分けることができそうだ。すなわち、同化するプロセスと、異化するプロセス。
何と同化して、何から異化するか?
それは単位体の中にあるもの、あるいは単位体を構成するものだ(それを「ストック」と呼んだり「スキーマ」と呼んだりする)。


まとめると、インプット → プロセス(同化と異化*1) → アウトプット。1つの単位体におけるフローはこのようになっている。
そして、フローとストックやスキーマが常に入れ替わって、ストック・スキーマが更新されるようなことを「代謝」と言う*2


他の例も見てみようか… と思ったが、それはもう少し先に進んでからのほうがわかりやすそうなので、後に回すことにしよう。



さて、今度は紙の右側の空白を埋めていこう。黒のペンを持って。


今度は、真ん中の辺りに小さく円を書く。そしてその中にヒトと書こう。1つの円は1つの単位体を表している。

次に少し左上のほうに、また丸を書いて、中に植物と書く。ヒトは植物を食べるから、植物からヒトに向けて赤い矢印を引っ張ってくる。これは、ある単位体から別の単位体への栄養素の流れを表している。

それから、左下のほうに草食動物と書く。草食動物は植物を食べるから、植物から草食動物に向けて赤い矢印を書こう。また、ヒトは草食動物を食べるから、草食動物からヒトへの矢印も書く。

右下には肉食動物と書く。あとは… 自分で考えればわかるだろう。


目に見えないが忘れてはならない、微生物。微生物は動物の糞尿、動植物の死骸を分解して生きているから、他のすべての単位体から微生物に向けて矢印を書き入れる。
植物は微生物によって分解された要素を地面から吸い上げて生長するから、微生物から植物へと矢印を引く。


ひどく大雑把だが、これで一応出来上がり。
以上のように、複数の単位体がネットワークでつながれ、栄養素が巡りめぐっているようなとき、これを循環と言う。


さて、話にはまだ続きがある。
今書いた複数の単位体からなるネットワークを全部ひっくるめて「生態系」と呼ぶ。だから、今書いた単位体全部を黒い大きな円でくくってしまおう。そしてどこかに「地球の生態系」と書き込む。

実はこの「系」という言葉こそが「システム」である。生態系を英訳すると、“the ecosystem”である。複数の単位体からなるネットワークを全部ひっくるめて1つのものとして考えているものなので、「複合単位体」と言ってもいいだろう。
そして、システムのことを考えるとき、そこに含まれている個々の単位体のことだけを考えるのではなく、単位体どうしのネットワークのことをも考えなければならない。


おっと、重要なものを書き逃していた。太陽である。
太陽は地球の生態系の外にあるから、左上の外側に書こう。植物は光合成するから、太陽から植物に向けて赤い矢印を書く。

それから、地球から宇宙に向けて、いつも熱が放出されているから、「地球の生態系」の内部のどこからでもいいから、円の外、右上に向けて赤い矢印を引く。


さあ、それでは左の図と右の図を見比べてみよう。



おお、似ている。

太陽の光が地球に届き、植物によってそのエネルギーが蓄えられ、そのエネルギーがぐるぐるっと回っていくなかで熱に変わり、地球外に放出される。これをインプット→プロセス→アウトプットの図式で見てよさそうである。
システムとは複合「単位体」なのだ。


お好みであれば、水の流れ、二酸化炭素の流れ、酸素の流れなど、いろいろ書いてみたらいいと思う。




左側の図に戻って考え直してみる。


先ほど、こう書いた。

食べ物を食べる。→ 消化吸収されて血や肉の一部に組み込まれたりエネルギー源になったりする。血や肉は寿命が決まっていて、やがて分解される。エネルギー源はエネルギーを取り出されて、絞り粕になる。→ いらなくなった物質は体外に糞尿として排出される。エネルギーは最終的に熱として放出される。<物質とエネルギーのフロー>


私たちの身体は、血や肉や骨や臓器、あるいはもっと細かく個々の細胞といったものに分けて考えることもできる。
体内に吸収された栄養素や酸素が血液に乗って運ばれ、ある筋肉細胞にたどり着いたとしよう。筋肉細胞では、栄養素や酸素が血液から取り込まれ、筋肉の組織をつくるためや運動のために消費され、また老廃物や二酸化炭素は血液に持っていってもらう。ここにもインプット→プロセス→アウトプットの図式が成り立っているし、ある細胞とある細胞のネットワークが存在する。体内のありとあらゆるところにこの図式が見られる。
実は私たちの身体は単なる単位体ではなくて複合単位体(=システム)だったのだ。このように、大きいシステム>小さいシステム>…となっていく場合もある*3



整理しよう。

システム(=複合単位体)は個々の単位体の単なる集合ではなくて、単位体どうしのネットワークも含めた全体のことを意味する。

細胞などの単位体と、それらの間のネットワークで動植物の身体ができている。
動植物などの単位体と、それらの間のネットワークで生態系ができている。

ここで言うネットワークとは、関係性がある、栄養素や情報などをやりとりしている(フローがある)、ということだ。それが閉じた回路*4をグルグルと繰り返し通るようなとき、それを循環と呼ぶ。

細かく観察すると、ネットワークにおけるフローは、ある単位体からのアウトプットから、別の単位体のインプットへ、という流れになっていることがご理解いただけると思う。



ちょっとわかりにくいかな。自分で実際に書いてみるといいと思う。

*1:必ずしも「同化と異化」という言葉だけで表されるものでもないが、ここではこのようにしておく。

*2:プログラムの場合、プログラムが更新されないのならば、代謝ではないだろう。人工知能みたいなものの場合、代謝と呼んでもいいのかもしれない。

*3:宇宙>銀河系>太陽系>地球の生態系>人間>… というように。これらはすべてシステムだ。

*4:完全に閉じている場合だけではないけれども。「ある程度閉じた」という感じ。