川口能活の眼


サッカーネタついでに日本代表ゴールキーパー川口能活選手について気がついたことを書く。内田樹さんの身体運用論に通ずるところがあるから、せっかく(反応が大きいネタに)トラックバックしてるからこれも、と思って。


アジア杯の前、EURO2004の放送のゲストで出ていた川口を見たとき、僕は「ああ、ヨーロッパに行って、眼がよくなったなあ」と思った。

別に視力がよくなったとかいう話をするわけじゃないし(だいたい僕は川口の視力なんて知らない)、より男前の顔になったとか、そういう話をするわけでもない。


   ★


川口はEUROの放送の中で、アタッカーとキーパーの1対1のシーンを解説するときに、「ぎりぎりまでステイできる(動かないでいられる)のがいいキーパーだ」と何度も言った。確かに、相手より先に動いてしまったら即ゴールになってしまう。


アタッカーとキーパーの1対1は、内田さんが本の中で書いているような剣豪どうしの1対1の勝負みたいなもので、「時間を短く区切って使う」ということと「何かに気を捕らわれない」ことが大事になってくる。


相手のシュートコースのどこをブロックするかということを判断してから体を動かしてそのコースに入るまで1秒かかるキーパーに比べて、それを0.5秒でできるキーパーは相手アタッカーの動きを0.5秒長く見ていられるし、ディフェンダーが戻ってくるのを0.5秒長く待っていられるので、ゴールを守れる確率は上がる。

どのコースにシュートを打つか、あるいはフェイントするかを判断してから体を動かしてシュートを打ったりフェイントしたりするまで1秒かかるアタッカーに比べて、それを0.5秒でできるアタッカーは相手キーパーの動きを0.5秒長く見ていられるので、ゴールを奪える確率は上がる(レアル・マドリー、スペイン代表のラウルなんかはこういう感じのストライカーだ、とスポーツジャーナリストの金子達仁さんは言っている)。

これが「時間を短く区切って使う」ということだし、川口の言う「ぎりぎりまでステイできる」ということだ。どのくらい短い時間に区切って動けるかの勝負になる*1



と、このように先に動いたらやられるわけだけれど、相手に動きを読まれてしまってもやっぱり同じだ。ここで「何かに気を捕らわれない」ことが重要になる。気持ちが何かに捕らわれると、動きを読まれたり、読みを読まれて裏をかかれたりしてしまうからだ。


で、僕は川口の眼がよくなったなあと思ったのだ。


EUROの番組で、川口の眼は普通の人の眼に比べると焦点が若干合ってないような感じに見えた。これは、眼球の奥の筋肉がリラックスしていて、ものがよく見えていて集中しているんだけれども、何かに気を捕らわれることもない、軽い瞑想状態に入っているときの眼だ。

彼はきっとピッチでも日常的にも、そういう軽い瞑想状態のままで行動する方法を体得したんだろうなあ。彼との1対1の局面になったアタッカーは相当やりづらいに違いない、と僕は思った。

1対1って、もちろん得点の可能性が高い局面ではあるんだけど、だからと言ってキーパーが圧倒的不利かというと、実はそうでもない。なぜならばキーパーは防ぎきればいいだけであるのに対して、アタッカーにはディフェンダーが追いついてくる前にシュートを打ちたいという気持ちの捕らわれが生じやすいからだ*2。PKだって、“仕掛けなきゃいけない”のはキーパーじゃなくてキッカーだ。
そういう精神状態のアタッカーに対して、キーパーが捕らわれのない状態で待ち構えているようなときは、1対1であってもなかなかゴールが決まらなかったりする。


だから僕は川口の眼を見て「ああ、ますますいいキーパーになってきてるなあ」とか思っていたんだけど、そんなところにヨルダン戦の4連続PKセーブなんかがあって、「ほら、やっぱり」と僕は一人で喜んでいた。

今書いても後だしジャンケンみたいに見えると思うけど。



トラックバックしてるついでと言ってはなんだけど、内田樹さんと川口能活選手や金子達仁さんとの対談をしてくれたら面白いだろうなあ、とか勝手にリクエストしてみて、今日はお終い。


(終)




<追記>
いつも見に来てくれている方、ありがとうございます。
やっと更新する気力が湧いてきたので、そろそろまたクリチバの話を書きたいと思います。もう少し待っててね。



以下はキーワードに引っかかるために本文中の言葉を言い換えたもの。
アジアカップ レアル・マドリード レアル・マドリッド
 

*1:テニスなんかもそうなんだろう。ストレートかクロスかをボールを打つぎりぎりまで待って決められる選手のほうが強いし、相手のショットに対してどっちのコースに走るかぎりぎりまで待って動ける選手のほうが強い。

*2:もちろん、そういう時間制限の脅迫にまったく捕らわれない選手もいる。レアル・マドリー、ブラジル代表のロナウドなんかはそうなんじゃないかと思う。