その街の名は…


驚異的なことに、自家用車に頼らず、先進国の都市に負けないような経済成長をも果たしてしまった街が、ブラジル南部に実在する。ブラジルは決して豊かな国ではない。だがそこに、「第三世界に出現した第一世界をも上回る都市」とも称される街が、確かに存在するのだ。

さあ紹介しよう。その名は…


そう、その名はクリチバ

サンパウロから南西に位置する、パラナ州の州都クリチバ市だ。


50年前のクリチバ市は、農業中心の貧しい土地柄だった。資源に乏しく将来の人口爆発に怯える、第三世界によく見られる寂れたところだったそうだ。
しかし、1971年に若干33歳の建築家・アーバンプランナー(都市計画専門家)、ジャイメ・レルネルが市長に大抜擢され、歴史が大きく変わることとなる。彼は改革に着手し、市民との協同作業により、たった30年間で悲惨な経済状況から抜け出し、教育、健康、福祉、治安、市民の政治参加、政治的安定、環境保護、共同体意識の向上を達成した。今のクリチバは、周辺の都市はもちろん、アメリカのほとんどの都市と比べても明らかに優れているという。


どうしてそんなことが可能だったのだろうか?
端的に結論を言ってしまえば、彼らが常にシステム的に物事を考え、システム的に物事に取り組んできたからだ。


では、僕らの街でも彼らのような成功が見込めるだろうか?
答えはYesだ。彼らに習って、システムアプローチを試みればいいのだ。


僕らの街の多くでは、さまざまな都市問題に対して、いつも個別に1つずつ対応しようとする。これが僕らの世界の古くて腐りきった一刻も早く捨てなければならない常識だ。
しかし、システムアプローチの常識においては、個別に問題に取り組んでうまくいくことはむしろまれだということがはっきりわかるだろう。システム論では関係性・連動性を重視する。ある問題と他の問題は有機的に関係しており、その関係性を無視して問題に取り組めば、1つの問題を解決するごとにもっとたくさんの問題を生み出してしまうことになりかねない。それがシステム論から得られる自然な結論だ。

あるシステムの構成要素だけを取り出して最適化しようとすると、システム全体が最悪化するおそれがある。また、構成要素間の隠れた関連性を見落としてしまうと、その関連性は有利に働かず、逆に不利に働く状況をつくり出すという傾向がある。

(中略)

(引用者注:都市では)ある問題の原因が、実は以前に実施した何かの対策の手抜かりだったり、ブーメラン効果だったりすることが多い。たとえば、広い道路を建設したためにかえって交通量が増える、河川に水路を開いたために洪水が悪化する、ホームレスを収容したために収容施設で肺炎が蔓延する、刑務所の受刑者に職業訓練を施したため知能犯が増える、などといった問題だ。こうした問題を解決するには、個々の問題に取り組むのではなく、多数の問題を同時に解決または回避することができ、新たな問題が発生しないような方法を見つけることである。こうしたシステム全体を考えるアプローチなら、それぞれの問題の因果関係を明らかにできるばかりでなく、解決が困難な問題をチャンスに変えることもできる。つまり、地域社会も社会全体も、建物の設計と同じでシステム全体の設計をよく理解し、リーン生産方式の工場のように無駄のない簡潔な技術を用い、これまで紹介した優れた企業と同じような起業家精神をもって管理運営する必要があるということだ。


『自然資本の経済』(ISBN:4532148715) 452-453ページより引用

これこそが、システムアプローチの常識なのだ*1


ではクリチバ市の歴史、その改革のプロセスを一緒に見ていこうじゃないか。

*1:この考え方は個人として生きる上でも非常に有効なので、常に頭に入れておくといいと思う。