ビッティング 〜二進法的発想法


『寝ながら学べる構造主義』(ISBN:4166602519) 153-154ページからの引用。

「二項対立」の組み合わせをいくつか重ねていくと膨大な量の情報を表現できるのというのは(コンピュータ世代にとってはなじみ深い)二進法の考え方です。情報量の最小単位である一ビットは「0/1」という一組の二項対立によって、二つの状態を示されます。
「ビット」という概念を理解するには、オン/オフのスイッチのついた豆電球を思い浮かべるのが簡単です。豆電球が一つあると、「点灯している/消えている」という二つの異なった状態、つまり一ビットの情報、「0/1」を表すことができます。
豆電球が二つあると、「ABとも点灯している/Aだけ点灯している/Bだけ点灯している/どちらも消えている」の四つの状態を表すことができます。二組の二項対立によって「00/01/10/11」の四つの状態を示すことができます。これが二ビットの情報。同じようにして、三ビットは八とおり、四ビットは十六とおり、そしてコンピュータ容量の最小単位一バイトは八ビット、すなわち二百五十六とおりの異なった状態を表すことができます。


ビッティングとは、2つに分けるということ。もっと正確に言うと「イエス/ノー」の2つに分けるということだ。物事を分類しながら考えていく時に、このビッティングという手法は極めて有効となる。漏れなくすべての可能性を考えることができるからだ。


ここで、姫のモテ分類を拝借(id:Ririka:20040605#p1)。

 1. もてたいとおもう→(そして)→もてる

 2. もてたいとおもう→(そして)→もてない

 3. もてたいとおもわない→(そして)→もてる

 4. もてたいとおもわない→(そして)→もてない

(「もてたいとおもわない」は、非「もてたいとおもう」を表わす)

僕はモテについて語るつもりはないよ。分類の手法について語りたいのだ。


さあ、紙と3色のペン(黒、赤、青として話を進める)を用意しよう。

まず黒のペンを持って。ある時点でのホモサピエンスの数は、どの時点をとっても常に有限。ホモサピエンスが存在する期間も有限だろうから、地球上に存在する(した、今後存在する)全ホモサピエンス数は有限だ。この有限の集合を表すために円(別に円じゃなくても閉じた図形ならば何でもいい)を1つ書いて、その上に「全ホモサピエンス」と書こう。

次に赤いペンを持ち、円の左端から右端へ1本の線分を引く。そうすると円が上半分と下半分に2分割された。この横に引いた線分に注釈をつけよう。「その人はもてたいとおもっているか?」と。上半分に「イエス」、下半分に「ノー」と書く。

今度は青いペンを持ち、円の上端から下端へ1本の線分を引く。そうすると円が左半分と右半分に2分割された。この縦に引いた線分に注釈をつけよう。「その人はもてるか?」と。左半分に「イエス」、右半分に「ノー」と書く。

赤い線分と青い線分によって、円が4分割された。これが姫のモテ4分類なんだけども、漏れがないのがわかるだろう。


ある集合を分類して考える場合、「Aである/Aでない」「Bである/Bでない」…というようにビッティングを続けるにおいては、絶対に漏れが生じない。しかし、「Aである」「Bである」「Cである」…というように分類すると、考えなければいけないことが多くなってきたときに、ついうっかり漏れが生じてしまう可能性がある。


(「もてたいとおもう」ということに対する答えは「イエス/ノー」では答えられないだろうという反論があるかもしれない。でも、それはビッティングという手法を脅かすものではなく、むしろ「どこに線引きするか」という問題だ。確かにそこのところは明確な線ではなくてグラデーションになってるんだろうけども、何かの指標を持ち込んで「もてたい度数70以上/70未満」に線を引きますよ、「20以上/20未満」にも線を引きますよ、とかいうふうにすればいいわけ。原理的には何も変わってない。)


とまあ、これでは当たり前の話で何にも面白くないな。なんか姫のところから始まった流れをざっと眺めてみると分類ってどういうもんかわからん人もいるみたいだったから、とりあえず書いておいた。



さて、こっからが面白くて使える話。
コンピュータがまだ走りの頃、フラーはこのビッティングという手法が強力な思考の道具の1つだということに気づいていた(って言ってもフラーが最初じゃないだろうけど)。


何かの答えを探したいとき、ぼやっとした中から答えを見つけようとするのは大変なことだ。
そこで、まず答えが含まれていそうな集合を定義する。それから適当に集合を2分割して、答えが含まれていないほうを捨てる。これを繰り返すと、いつか答えが孤立化してくれる。
『寝ながら学べる構造主義』にも、「『何であるか』ではなく『何でないか』」というような言い回しが何度も出てくる。


そう言えば、前にも何度か書いた神田昌典さんは『非常識な成功法則』(ISBN:4894511304)で、やりたいことを見つけたければ、まずやりたくないことを全部リストアップしろと言っている。そうすると、ぼやっとした中からやりたいことを探すよりもずっと速いわけだ。


ビッティングが強力な思考の道具だってのは、そういう意味なんだな。