オマケ4 「平気」


言葉つながりでもう1ネタ。


前に付き合ってた女性が、「平気」という言葉をよく使っていた。

僕が「大丈夫」「問題ない」という言葉を使うところで、彼女はその代わりに「平気」を使う。


例えば電話で映画を見に行こうという話をするとき、「じゃあ、今度の日曜日、大丈夫?」と僕が聞くと、「平気だよ」と彼女は言うわけだ。もちろん彼女から何か聞いてくるときは「平気?」とくる。
この彼女の「平気」という言葉の使い方が、僕はたまらなく好きだった。


「大丈夫」「問題がない」という言葉には、どちらかと言うと「現実としてノープロブレムだ」というニュアンスを僕は感じる。

それに対して「平気」という言葉には、どちらかと言うと「現実的に何か問題がある(生じる)にしても、いいよ」というニュアンスを感じる。気持ちや意志の問題ね。それに、「へーき」という音の響きがなんとも言えなくかわいいじゃないか。

別にどういう意味で使ってるか聞いたわけじゃないから、本当のところはわからない。彼女自身はどちらも「ノープロブレム」の意味で使っていたのかもしれない。


彼女は昔、小児喘息に長く苦しんでいたそうで、そういう話を聞くと「平気」という言葉使いを妙に意味ありげに感じてしまう。咳き込みながら母親に向かって「平気」とつぶやく彼女の子供時代の姿が目に浮かんでくる。
付き合っていた頃、僕は彼女に「苦労を乗り越えてきた人特有の柔らかくてしなやかな強さ」みたいなのを感じていたんだけど、「平気」はそれを象徴するような言葉でもあった。

ところが僕に影響されたのか、いつからか「平気」じゃなくて「大丈夫」を使うようになってしまって、少し残念に思ったのを覚えている。


なんか未練たらたらに見えるかもなあ。でもしょうがないや。いい女は数少ないもん(お、自分で認めたね)。


(終)